企業でのExcel利用の現状
表計算ソフトを超えた「万能ツール」としての使われ方とその課題
本来、Excelは数値計算やデータ管理のためのツールですが、日本企業においては、単なる表計算ソフトを超え、業務の基盤として広く活用されています。報告書作成、プロジェクト管理、予算計画など、あらゆる業務でExcelが使われ、さらには業務アプリの代替としても活用されています。VBAによる業務自動化の実装も一般的で、まさに「万能ツール」として機能しています。
Excelは導入が手軽で自由度が高いため、短期的な業務改善には効果的です。一方で、その手軽さが長期的な業務最適化を“妨げる”要因にもなっています。各部署が独自のExcelファイルを作成することで属人化が進み、データの一貫性が損なわれるという課題も生じています。
Excelが「万能ツール」たる理由とその限界
まず、誤解のないように述べておきますが、Excelは非常に優秀なソフトウェアです。私も日常的にExcelを活用しており、その優秀性を否定するつもりはありません。多くの企業ではMicrosoft Officeが標準導入されているため、追加費用なしで利用できる点も大きな利点です。ほぼすべての社員がExcelを扱えるため、新しいツールを導入する際の教育コストもほとんどかかりません。さらに、ユーザーが自由にフォーマットや計算式を作成できるため、業務に合わせたカスタマイズが容易です。
しかし、会社全体の視点から見ると、課題も浮かび上がります。Excelでのデータ管理は、一貫性の確保が難しく、更新や共有に手間がかかります。データ管理が複雑化し、非効率な状況を生んでいます。また、Excel業務が特定の個人に依存することで、担当者不在時の業務停滞リスクが高まります。
「あの山田さんのデータが欲しい!」
「すいません、今日山田さんお休みです!」
このような会話、身に覚えはありませんか?Excelはリアルタイムでの同時編集に制限があり、チーム作業の効率を下げる要因ともなり得るのです。
Excel発祥の地アメリカから学ぶ、理想のデジタル環境
では、Excelの発祥地であり、デジタル先進国である米国ではどうでしょうか?
目的に応じたツールの選択が基本
米国企業では、業務効率化のため、目的別の専用ツールを採用する文化が定着しています。Google DocsやNotionなど、共同作業に適したツールが広く普及しています。Webベースのツールを活用することで、リアルタイムのデータ共有やリモートワークがスムーズになります。さらに、これらのツールによってデータとワークフローが一元化され、業務効率が向上します。統合された業務システムにより、透明性が高まり、データの活用が促進されます。部署間で数値が異なるために調査が必要となるような非効率な作業は発生しません。
ただし、もちろんExcelが全く使われていないわけではありません。少し余談ですが、アメリカでは世界一のExcel職人を決める選手権が開催されています。この選手権では、eスポーツのように与えられたテーマに対して、制限時間内にExcelで課題をこなし、獲得したスコアを競い合います。これは、Excelを本来の表計算ソフトとして使い、数値計算の効率性と正確性を競うコンテストとなっています。このことからも、Excelというツールが評価され、活用されていることが分かります。ちなみに2024年の優勝者は、金融サービス業でモデリング部門のディレクターを務めるデータ分析のプロフェッショナルでした。
参考記事:https://japan.zdnet.com/article/35228596/
Excel依存がもたらす影響:進化か停滞か
進化の可能性:プロトタイピングツールとしての活用
Excelは、効果的なプロトタイピングツールとして、新システム導入前の試験運用に活用できます。システム開発がウォーターフォールからアジャイル開発へシフトする中、画面設計書やワークフローなどの文書作成よりも、Excelでのテストデータ作成や処理フローの検証が効果的です。私の前職でも、IoTデータ活用サービスの開発時に最初はExcelでプロトタイプを作成し、1年間の運用・効果検証を経て本格的な開発に着手しました。(なお、Excelでの運用から専用アプリの開発に移行したのは、生産現場の単位時間あたりの生産性が向上し、Excelの棒グラフ描画上限である255本を超えたためでした。)
最近では、ExcelをSharePointやOneDrive上で共有することが容易になっています。APIやRPAなどの外部ツールと連携することで、Excelの利便性を保ちながら業務の最適化が可能です。
一方で、過度なExcel依存を続けることには重大なリスクがあります。
停滞のリスク:業務改善のスピードの低下、IT人材や新しい技術導入の阻害
個人が抱え込んだExcelへの依存が強すぎると、業務のデジタル化や新しいツールの導入が滞ります。たとえExcelをOneDriveに保存しても、個人のローカル領域に置かれていては他者からのアクセスができません。
また、Excel中心の業務が続くことで、IT人材の育成や新技術導入の障壁となる可能性があります。最新のWebツールを使いこなすデジタル人材は、このようなExcel依存の業務環境を好みません。結果として、優秀なデジタル人材の採用を妨げる要因となりかねません。
まとめ:Excelは表計算ソフトです!
ここまで、日本企業に見られるExcel依存の課題について述べてきました。私自身、データ活用推進の立場からExcelには大変お世話になっています。一方で、ドキュメント作成や印刷の再現性など、Excelへの過度な期待をよく耳にし、その都度「Excelは表計算ソフトです」と伝えています。Excelは表計算ソフトであり、万能の解決策ではありません。システム開発の古典「人月の神話」には、「銀の弾などない」という言葉があります。これは「狼人間を魔法のように鎮める銀の弾丸のように、ソフトウェア開発において即座に効果を発揮し、プログラマの生産性を劇的に向上させる特効薬は存在しない」という意味です。Excelは銀の弾丸のような「万能ツール」ではなく、あくまで「表計算ソフト」であるということを念頭に入れておくことが、業務効率化の鍵なのです。
次回は、このExcel依存からどう脱却し、どのようにデジタル化を推進するかについて述べていきます。