「サッカー×ビジネス」キャリアの築き方、第5回目はスポーツ部門及びクラブの事業環境を左右する「協会」及び「リーグ」について、ご紹介いたします。
本題に入る前に、本連載の「前提」を振り返ります。
※本連載の全ての記事において、冒頭に「前提」を明記します。記憶が新しい方は読み飛ばしていただいて構いません。
連載の前提
■内容
「サッカー×ビジネス」というキャリアの築き方について、スポーツ部門(強化部)の周辺ステークホルダーから考えられる職種、就職の方法、得られる機会、注意点、ネクストキャリアの可能性など
■ターゲット
国内外の有名大学を卒業予定で将来はサッカー/スポーツビジネス業界でキャリアを築いていきたい学生、または、その延長にいる若手社会人
■コンセプト
単なるお仕事図鑑ではなく、スポーツ部門にいながら感じた現場のありのままの情報を届けること(情報の全体感より深さを優先)
上記を前提として、本文をご一読いただけると幸いです。
「サッカー×ビジネス」のキャリア:⑤協会・リーグ
▶「協会」とは
メジャーからマイナーまでほとんどスポーツ種目には、それを統括する団体として「競技連盟」や「協会」が存在します。野球界には「全日本野球協会」「日本野球機構」など、柔道界には「全日本柔道連盟」など、そしてスカッシュ界にも例に漏れず「日本スカッシュ協会」などといった団体があります。サッカーに関しては、日本全国の子どもから大人までのサッカーに加えてフットサルやビーチサッカーなども含めた「蹴球」競技全般を統括する組織が、「公益財団法人日本サッカー協会」いわゆる「JFA(Japan Football Association)」です。
ちなみに、連盟と協会の違いについては本コラムでは省略いたしますので、ご興味をお持ちの方は別途調査してみてください。以下、本コラムでは便宜上、連盟や協会をあわせて「協会等」と呼称します。
協会等の役割は、当該スポーツの国内大会の主催・運営、国内の競技ルールの制定、国際大会への代表選手団の派遣、普及振興の促進などが挙げられます。JFAで言えば、日本一の男子サッカーチームを決める「全日本サッカー選手権大会(天皇杯)」や同じく女子サッカーの「全日本女子サッカー選手権大会(皇后杯)」、高校生年代の全国大会である「高円宮杯 JFA U-18サッカープレミア/プリンスリーグ」などの主催・運営、「SAMURAI BLUE」を始めとする各世代別代表チームの組成と世界大会への派遣などの他、審判の育成や指導者の育成、それらに関連するライセンス制度の管理などを行っています。
▶「リーグ」とは
プロ向けの競技大会として、総当たり形式で年間のチャンピオンを決定する大会を「リーグ戦」と呼びます。協会等が日本国内の競技を管轄するとはいえ、このプロ向けのリーグ戦については、アマチュア向けの大会と比較して経済規模や運営・管理工数が桁違いに増えることもあり、協会等とは別途で管理団体を立ち上げ、当該団体がリーグ戦を管轄します。野球界で言えばそれが「セ・リーグ」と「パ・リーグ」に分かれるプロ野球であり、その統括団体が前述の「日本野球機構」です。サッカー界では、上位から1-3部までのカテゴリー(いわゆるJ1、J2、J3)に分かれる「Jリーグ(日本プロサッカーリーグ)」があり、その統括団体が「公益社団法人日本プロサッカーリーグ」です。以下、便宜上、競技大会としてのJリーグを「Jリーグ戦」、その統括団体を「Jリーグ」と区別して呼称するようにします。
Jリーグは、JFAと密に連携・情報共有をしながら、Jリーグ戦の運営やJリーグ戦に関連する各種ルールの制定、興行としてのJリーグ戦に関する各種事業・広報施策などを行います。
これら統括団体がJクラブに与える影響を例示すると、競技面では、Jリーグ戦の競技ルールや選手登録及び移籍のルールなどは、JFA及びJリーグが定める規約や手順に則り遂行されます。または、Jクラブがルール違反を犯すと懲罰の対象となるような罰則規定も統括団体により定められています。事業面では、JクラブはJFAよりもJリーグとの連動が多く、各クラブはJリーグが提供するマーケティングプラットフォームを活用させてもらい集客に関するデータ分析やチケット販売施策の検討を行います。または、Jリーグが一括管理・販売するJリーグ戦の放映権収入が、Jリーグから各クラブに分配金や大会賞金として配分されます。
直近のトピックとしては、JFA及びJリーグが連携しながら、Jリーグ戦の開幕時期を2026年以降、冬開幕から夏開幕に変更するいわゆる「シーズン移行」を行うことが議論されています。当然にJクラブに対しては入念にヒアリング等がされますし、Jリーグの理事や各種検討委員会にはJクラブの代表者たちも含まれますが、これら統括団体の決定事項はJクラブの事業環境に多大は影響をおよぼすことになります。
▶JFAとJリーグの比較
JFAもJリーグも、どちらもサッカーの裾野拡大や競技力強化のために存在しています。それはJリーグに加盟するJクラブにとっても同様であり、この3つの団体はどれも似通った会社組織構造を保有しています。すなわち、①事業関連部門、②競技関連部門、③管理部門という3つの部門に大別されることです。それぞれJFAとJリーグが持つ部門と役割を以下に比較します。(2024年10月現在)
■JFA
①事業関連部門
・「パートナー事業部」内に、スポンサー・パートナー関連、放映権関連、グッズ関連の機能が集約
・「コミュニケーション部」内に広報とプロモーションを担うグループが存在
②競技関連部門
・「技術部」が代表チームの管理を含む競技力強化を担い、「競技運営部」が各種大会の運営やルールを管理
③管理部門
・「経営企画部」に戦略策定や人事、サステナビリティ領域を集約
・会計領域は「財務部」が別途存在
・「コーポレートサポート部」が法務、総務、ITインフラ等を管理
■Jリーグ
①事業関連部門
・放映権等を管轄する「マルチメディア事業本部」とマーケティングやグッズ等を管轄する「事業マーケティング本部」に大別される
②競技関連部門
・「フットボール本部」が競技運営や育成強化を管轄
③管理部門
・「経営基盤本部」に人事、財務、法務、総務、ITインフラなどの機能が集約
部門の切り方や集約の仕方については微妙に異なるものの、JFAもJリーグも概ね同様の組織機能を保有していることをご理解いただけたかと思います。
なお、両団体の組織図は各HPに掲載されています。より詳細な情報に興味があれば、別途下記のURLをご確認ください。
JFA
https://www.jfa.jp/about_jfa/organization/jfa_structure/
Jリーグ
https://www.jleague.jp/corporate/about_j/profile_j/

▶JFA、Jリーグ、Jクラブ、結局どこに就職したらよい?
それぞれの団体が持つ組織機能が似通っているからこそ、次にこのような疑問が浮かぶかもしれません。概ね、以下のイメージを持った上で、読者の皆様がサッカーとどのように関わりたいかに応じて、進路希望をご検討いただけるとよいかと思います。
JFA
・年代を問わず代表チームのビジネスに関わりたい
・年代やプロアマのカテゴリーを問わずサッカー界全体に広く貢献したい
Jリーグ
・Jリーグ全体を通じたサッカーの普及や競技力強化に貢献したい
・Jリーグの職員としてJクラブを包括的にサポートして、リーグとクラブ全体でのレベルアップに貢献したい
Jクラブ
・1つのクラブで直接的に顧客と向き合い、フィードバックをもらいながら現場の最前線でPDCAを積む経験をしたい
・クラブがホームタウンを置く地域の振興に貢献したい
当然ながら配属された部門によって業務は異なりますが、サッカー界全体やJリーグ全体の方向性を決めたりルールメイキングをしたりする役割は、クラブにはないJFAやJリーグで働く特徴と言えるでしょう。
▶JFAとJリーグへの就職事情
スポーツ界全体の特徴と言えますが、本コラムでご紹介した「エージェンシー」や「サプライヤー」などと同様に、例に漏れず、新卒採用の枠は少なく中途採用が中心となります(ただし、Jリーグに限っては、近年では新卒採用にも注力されつつあります)。一方で、それらの中途採用と比較すると、JFAやJリーグの求人はよりオープンな形で世に出る傾向にあります。dodaやビズリーチ(公募形式)など大手採用サイトに求人掲載されることもありますし、大手ダイレクトスカウトサービスを通じた採用も行われます。
したがって、JFAやJリーグへの就職を希望するようであれば、主なダイレクトスカウトサービスには網羅的に登録しておき話が舞い込んでくるのを待ち、かつ、主要な転職サイトで公募が始まるタイミングも同時に待ちながら、来るべき機会を伺うのが現実的でしょう。その際に重要なのは、Jクラブに関するコラムでもお伝えしたように、チャンスを待ちながらご自身の専門性を磨いておくことです。
▶さいごに
転職サイトを通じた採用が中心であるという点で、Jクラブへの就職ルート・ステップと大差がないため、サッカー業界に就職したい方は、JFA、Jリーグ、Jクラブすべてに対して網羅的に応募するような転職活動をする方が多い印象を受けます。一方で、前述の通り、各団体のサッカー界における役割は異なります。これまでの社会人経験の中でどのようなスキルを獲得し、それが応募団体に対してどのような貢献ができ、ご自身のキャリアを今後どうしたいのかなど、他団体と比較した応募団体への理解ならびにご自身の能力及びキャリア計画のマッチングが明確になっていないと、三兎を追い一兎をも得られない結果に終わってしまうかもしれません。例えば、過去の業務経験から鑑みて、現場でゴリゴリPDCAを回していきたい方はJクラブの方がマッチするでしょうし、一方で、ステークホルダーを取りまとめながら客観視点を持ちつつ、方針を決めたり全体最適を模索したりしたい方はJFAやJリーグの方がマッチしやすいでしょう。
上記はサッカーに限らずどの競技種目にも当てはまるものと推察します。協会・リーグへの就職を希望される方は、なぜクラブではなく協会・リーグに就職したいのかを明確にされた上で転職活動を進めることを推奨します。
次回は、⑥スポーツ部門及びクラブの経営を左右する「親会社」についてご紹介します。