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#8 社員と業務委託が半々?サッカークラブの「雇用」事情

2022/07/26

私は前職のコンサルティングファームでは「正社員」として勤務していましたが、東京ヴェルディ株式会社に転職するにあたっては、会社員を辞めて「個人事業主」として独立し、会社とは業務委託契約を結んで仕事をしています。ただし、日々働いている中で、スタッフ間で雇用/契約形態の違いを意識することはなく、会社と雇用契約を結ぶ社員であろうと、業務委託契約のスタッフであろうと、皆が同僚のような感覚を持って働いています

サッカークラブにおける雇用形態は、一般企業とは若干異なります。一般企業であれば、社内に常駐する多くの従業員は会社と雇用契約を結ぶ「社員/従業員」ですが、サッカークラブには、社員と業務委託先スタッフがおよそ半々で入り混じっています。傾向としては、営業、チケット、広報、バックオフィスなどいわゆる「事業サイド」は、契約社員もしくは正社員が多く、一方で、プロ選手やコーチ、メディカルスタッフ、マネージャー、私のような強化部などいわゆる「サッカーサイド」の多くは、個人事業主として独立しており、会社とは業務委託契約(選手の場合は「選手契約」)を締結する、ドライに言ってしまえば「業務委託先」です。


なぜサッカーサイドの被用者は業務委託契約が多いのか


理由は大きく分けて2つあります。

1点目は、成績・結果に伴う人材の流動性を保つためと言えるでしょう。

事業サイドの人間は会社の売上や利益など、財務・経営指標にコミットしますが、サッカーサイドの人間は年間順位や所属カテゴリー(J1、J2、J3など)など、競技の成績・結果にコミットします(当然、サッカーサイドは会社のコストセンターであるため、それをマネジメントする部門である強化部には、与えられた予算内に費用を収めるという一定の財務・経営指標へのコミットはあります)。

例えば、プロサッカーの世界では、負けが重なり所属カテゴリーを降格させてしまう危険がある場合(J1からJ2への降格など)、もしくは、降格させてしまった場合、一般的に監督・コーチ、そして強化部のスタッフが、その責任を取って辞任する/解任されるケースが往々にしてあります。サッカーサイドの人間は、プロサッカー選手だけでなくスタッフであっても、いちプロの監督・コーチ、プロのメディカルスタッフ、プロのマネージャー、プロの強化部員として、結果が伴わなければ変化があって然るべきという覚悟を持って日々働いています

財務・経営指標は、いちスタッフが短期的に改善できる類のものではありません。一方で、競技の成績・結果は、サッカーのシーズンにおいては1年単位で順位やカテゴリーが決定されることからも、いちスタッフの能力に短期的に依存する側面が大いにありますだからこそ、成績・結果が改善されない場合には変化が必要です。そのため、雇用契約ではなく「プロフェッショナル」としての業務委託契約を結ぶことが多いと言えます。

2点目は、事業サイドとの働き方の違いに対応するためでしょう。

監督・コーチ、メディカルスタッフ、マネージャーなどのチームスタッフは、チーム一体となって行動を共にします。「月に8日休暇」「年20日有給取得」「週40時間勤務」など、勤務時間によって労働量をコントロールする必要がある社員とは全く異なる働き方をしなくては、現場が回りません

<チームスタッフの働き方(例)>

■日曜日に関東圏で19:00キックオフのアウェイゲーム。21:00頃に試合終了、22:00頃に会場撤収。その足でバスに乗り、25:00頃にクラブハウス帰着。深夜までの勤務になろうと、翌月曜日はトレーニングのため出勤。火曜日にチーム全体がオフになるため、自身も休みを取得。

■1週間で2試合を戦う連戦の最中。選手のコンディション維持を考えると、連戦中に練習をオフにはできないため、火曜日のオフ明け水曜日から練習→土曜日に試合→水曜日に試合→日曜日に試合。次の火曜日にやっと休日。およそ2週間は休日を取得するのが難しいスケジュール。

■連戦中でも何とか効果的に休養するため、日々の練習日は業務が終われば昼過ぎ~夕方には帰宅。

■1年間のリーグ戦を終え、シーズンオフに突入。12月上旬に最終戦が終わり、翌シーズンの立ち上げが1月上旬の予定。シーズン中には忙しく働いた体を休めるため、1カ月ほど長期休暇を取得。

上記のように、サッカーチームの特性上、チームに関与するスタッフの勤務時間は、どうしても繁忙期/閑散期の波が発生します。そのため、労働総時間ではなく、業務成果にコミットする業務委託契約が適しています

そうはいっても、クラブによっては、サッカーサイドのスタッフを社員にするケースもあります。その場合は、勤務日及び勤務時間の「割切り」が必要となり、チームと100%一体になって動くことは難しくなりがちです。例えば、「アウェイゲームには帯同しない」「練習があっても会社の公休に合わせて月曜日は休み」など、一定の条件下においては当該スタッフが不在になり、少数精鋭で人員編成をするサッカーチームの実態にはそぐいづらい事態が発生し得ます


今後、サッカークラブではどのような雇用形態が主流となるか


周知の通り、日本のスポーツ業界には、まだ十分な投資が集まっておらず、サッカークラブの給与・報酬水準は、決して高いとは言えません。そのため今後は、優秀な人材がサッカークラブに関わる際には、フルタイムではなく本業とのデュアルキャリアとして関わる勤務形態も増えることでしょう。

つまり、サッカーサイドのみならず、事業サイドの雇用形態も、今後は社員ではなく業務委託が増えると予想されます実際に、スポーツ業界の求人にはそのような副業案件も増えつつあります。サッカークラブ以外の一般企業においても、世間的な働き方改革の潮流を受け、正社員を業務委託契約に切り替え、兼業や起業を許容する制度も適用されつつあります。このような社会的な価値感の変容は、スポーツ業界であろうとなかろうと、同じマクロ経済下に存在する以上、無視することはできません。

「事業」と「サッカー」という異なる勤務形態のスタッフがバランスよく一つ屋根の下で働いているサッカークラブは、会社全体が業務委託スタッフの扱い方には慣れており、ある意味で兼業時代において一歩先を歩んでいると言えるのかもしれません。ただし、「業務委託契約だから勤務時間は気にしなくてよい」というわけではありません。業務委託契約スタッフの勤務時間の標準化は、全スポーツチームの現場が頭をひねって解決しなくてはならない喫緊の課題でもありますそして、チームの働き方改革の実行責任は、会社だけでなく強化部にもあると考えています。

一般企業とサッカークラブでは、雇用形態の違いがある一方で、「働き方改革」「副業」「兼業」「デュアルキャリア」といったキーワードは共通しています。時代に求められる働き方を実現できるよう、強化部の一員としてこれからも改善に取り組んでいきたいと思います。

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