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#6 選手契約に係る費用のパターン(後編)「他クラブ/団体に支払うお金」

2022/04/13

コラム#5では、選手契約に係る費用について、前編として「①選手に対して支払うお金」を紹介しました。今回は後編として「②他クラブ/団体に対して支払うお金」についてご説明します。

他クラブ/団体に対して支払う費用は、選手を新たに獲得した際、所属元クラブに対して支払う「移籍金」、当該選手の育成に関与した過去の所属クラブに対して支払う「育成金」に大別されます。


②他クラブ/団体に対して支払うお金:移籍金


移籍金とは、移籍補償金レンタル移籍補償金の2種類です。

移籍補償金は、選手が所属元クラブとの契約期間内に移籍してくる際、所属元クラブに対する契約解除金として補償するお金。この移籍補償金こそが、サッカーメディアで頻繁に取り上げられる「移籍金」を指します。また、レンタル移籍補償金は、移籍形態が期限付き(レンタル)の場合、所属元クラブに対する選手のレンタル料として補償するお金です。

ちなみに、所属元クラブとの契約期間が満了した後の移籍には移籍補償金はかからず、このような移籍形態を通称「フリー移籍」「自由移籍」と呼びます。


②他クラブ/団体に対して支払うお金:育成金


続いて、育成金とは、選手をこれまで育ててきた過去の複数クラブ/団体に対して支払うお金です。主に下記3つの種類があります。

  1. Training Compensation (通称:TC)
  2. Solidarity(連帯貢献金)
  3. トレーニング補償金 ※日本版TC

②-1 Training Compensation

Training Compensation(トレーニング・コンペンセーション)は、FIFA(国際サッカー連盟)が定める世界共通のルールです。その英語名の通り、 選手を育てたクラブの努力に報いるために支払われる育成金です。選手の契約期間内外に関わらず、23歳誕生暦年の年末までに国際移籍が行われた場合、12歳~21歳まで選手を育てた育成クラブに対して、移籍先クラブが補償金を支払うルールになっています。

ポイントは、国際移籍をする選手が、「Ⅰ:アマチュアからプロ」に初めて登録されるのか、または、「Ⅱ:プロからプロ」として移籍するのか、の2パターンによって運用が異なる点です。Ⅰ:アマチュア選手がプロ選手として初めて登録された場合は、12~21歳までの各所属クラブに対して「基準額」が支払われます。一方で、Ⅱ:プロ選手がプロ選手として完全移籍した場合は、直前の所属元に対してのみ、選手が21歳まで所属した年数に応じた「基準額」が支払われます。(個別契約に特別な取り決めがなければ、原則、移籍補償金とは別で支払われます。)

この「基準額」は、移籍先クラブが所属する大陸のサッカー協会・国・リーグのカテゴリーに応じてFIFAが定めた金額となります。つまり、移籍先のレベルによって単価が異なるのです。例えば、世界で最もハイレベルなリーグのひとつであるスペイン1部に移籍した場合、12~15歳までの所属クラブには年間10,000ユーロ、16歳~21歳までの所属クラブには年間90,000ユーロが、所属年数に応じて支払われます。これがスペイン2部だと、後者の支払いが年間60,000ユーロポルトガル1部でも年間60,000ユーロ、ポルトガル2部だと年間30,000ユーロなど、異なる基準額が設定されています。

②-2 Solidarity

次に、Solidarity(ソリダリティ)とは、TCと同様、FIFAによって定められた国際ルールです。一方で、TCとは異なり、移籍する選手の年齢は問わず、移籍補償金が発生する国際移籍の度に、過去の所属クラブ/団体に対して支払われる育成金です。(TCは上述の通り、23歳以下の選手の移籍に限られる。また、プロ⇒プロの移籍では直前の所属元クラブのみに支払われる。)

Solidarityは、日本では「連帯貢献金」と呼ばれます。つまり、一人の選手育成には過去の全クラブ/団体が連帯しているのだから全員に報いましょう、という趣旨の育成金です。選手が移籍補償金の発生する国際移籍をした場合、選手の誕生歴年換算で、12~23歳まで所属したクラブに対して、移籍補償金のうち全体で5%が各育成クラブに分配されます。金額の傾斜は、12~15歳がそれぞれ年間0.25%16歳~23歳がそれぞれ年間0.50%となります。なお、移籍補償金の一部を還元する仕組みであるため、移籍補償金が発生しないフリー移籍の場合は、Solidarityも発生しません

※なお、TC及びSolidarityともに、基準額に対して所属期間の日数を乗することで金額を日割り計算します。ここでは便宜上、日割り計算は割愛します。

②-3 トレーニング補償金

最後に、トレーニング補償金とは、TCが日本版にローカライズされた、JFA(日本サッカー協会)規定の国内ルールです。TCと同様に、Ⅰ:アマチュアからプロに登録された場合と、Ⅱ:プロからプロに移籍した場合で運用が異なり、JFAはそれぞれを「Ⅰ:トレーニング補償金(アマチュアからプロ)」「Ⅱ:トレーニング補償金(プロからプロ)」と明確に区別して呼称しています。

Ⅰ:トレーニング補償金(アマチュアからプロ)とは、アマチュア選手がプロ選手として移籍した際に、その選手を12歳~22歳(小学校6年生~大学年代)まで育成した街クラブや高校/大学などに対して支払われるお金です。実務としては、主に、高卒/大卒選手が初めてプロ契約を締結する際に発生します。そのため、TCやSolidarityなどの国際ルールとは異なり、特に日本の特徴である大卒プロ選手を想定して、その卒業年である22歳を区切りにローカライズされています。

このトレーニング補償金(アマチュアからプロ)は、直前のチームの種別(高校/大学)と、プロ契約先クラブのカテゴリー(J1/J2)によって単価が異なります。以下、金額の概要を示します。(便宜上、J3やJFLに移籍した際の単価は省略しています)

【大卒選手がプロ契約した場合】

小学年代(12歳)の登録チーム
⇒契約先がJ1:10万円、J2:5万円(年間)

中学年代(13-15歳)の登録チーム

⇒J1:10万円、J2:5万円(年間)

高校年代(16-18歳)の登録チーム

⇒J1:15万円、J2:10万円(年間)

大学年代(19-22歳)の登録チーム

⇒J1:30万円、J2:20万円(年間)

【高卒選手がプロ契約した場合】

小学年代(12歳)の登録チーム
⇒契約先がJ1:10万円、J2:5万円(年間)

中学年代(13-15歳)の登録チーム

⇒J1:10万円、J2:5万円(年間)

高校年代(16-18歳)の登録チーム

⇒J1:30万円、J2:20万円(年間)

Ⅱ:トレーニング補償金(プロからプロ)は、23歳以下のプロ選手がプロ選手として国内移籍した場合、移籍先クラブから所属元クラブに対して支払われます。なお、アマチュア時代のクラブには、所属元がプロ契約をしたタイミングで「Ⅰ:トレーニング補償金(アマチュアからプロ)」として補償されているため、移籍先クラブからのさらなる支払いはありません

トレーニング補償金(プロからプロ)の支払額は、細かな条件はここでは割愛しますが、概ね、J1に移籍した場合は年間800万円、J2に移籍した場合は年間400万円に所属年数を乗じた金額となります。ただし、もし所属元クラブが、中学生⇒高校生⇒プロのように連続して当該選手を登録していた場合は、海外TCと同様に中学生及び高校年代も所属年数としてカウントできます。その場合、13-15歳期間(中学生年代)は一律で年間100万円を単価とします。

以上、選手の移籍に際しては、俗にいう「移籍金」である移籍補償金の他に、上記3種類の育成金が発生します。そして、会計処理上、この「②他クラブ/団体に対して支払うお金」、つまり、移籍金と育成金の支払いは、選手契約に伴う無形資産として、発生のタイミングで全額をB/Sに計上し、選手の契約期間に応じてP/L上の費用として減価償却していきます。一方で、収益については、発生のタイミングで当該会計年度のP/L収入に計上します。

そのため、「○○の売却資金を××の獲得なんかに使ったから、他に使えるお金がないんだ!」といったよくあるクラブ批判は、半分正解で半分誤りです。移籍金費用が移籍金収益を上回っていたとしても、その選手と長期契約を結んでいれば、その分だけ獲得に要した移籍金費用は当該会計年のP/Lでは抑えられるため、実態として赤字にはなっていないケースが往々にしてあります

2回に分けて長々とマニアックな選手契約に係る費用のパターンを詳述してまいりましたが、結論として何を述べたかったのかというと、予算管理がまあまあ煩雑であるということです。

選手への固定費は、固定費とはいえ、シーズン中にC契約からA契約に移行する選手の年俸増を見込んでおかないといけません。変動費は、年間のチームの勝ち数や引分け数、選手個々のゴール数やプレータイムによって金額がぶれるため、年間予算を精度高く把握するには、選手個々のパフォーマンスをシーズン開始前にある程度予測した上で、シミュレーションする必要があります。また、移籍金や育成金の予算化には、上述した国内外の複雑なルールを把握した上で、金額計算ができる標準的な仕組みを作る必要があります。それ以前の前提知識として、B/SやP/L、減価償却など、基本的な会計の概念を理解している必要もあります

シーズン開始時には、強化部として会社に年間のP/LとC/Fを提出することもあるでしょう。その際に、P/Lでは移籍金を契約期間に応じて減価償却し、また、過去のTCやSolidarityの未償却分を年度償却し、C/Fでは一括でキャッシュ計上する、などの予算管理を行う必要があります。このような仕組みを標準化する業務こそ、ビジネスの専門家の腕の見せ所、だと思っています。だからこそ、ビジネス人材がスポーツ部門で価値を発揮できる機会は存分にあると信じています。

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