はじめに
私は、高校では普通科を卒業し、大学では外国語を学んだ典型的な文系人間です。コードは読めず、読めないならば当然に書けません。完全なる文系人間だからこそ、プログラミングを民主化し得るAIには大いに着目しています。2025年に世界中で「バイブコーディング」(=自然言語のみを用い「雰囲気(vibe)で」行うコーディングのこと) というニューワードが流行したように、AIの登場により、アイディアさえあればエンジニアでなくても誰もがサービスを生み出せる時代が到来しつつあります。
私自身、AI活用については積極的な方の人種だと捉えています。2024年2月より個人事業を法人化して会社経営をする中で、AIには自分自身の右腕のように相当お世話になっています。また、2025年はバイブコーディングの可能性に着目し、様々なバイブコーディングツールを試行錯誤しながら試しては、AIネイティブなアプリ開発について学び始めた1年でした。
そんな私が、プロサッカークラブを経営支援する者として、またはひとりの会社経営者として日々どのようにAIを活用しているのか、その一端をご紹介したいと思います。
プロサッカークラブでの取り組み
プロサッカークラブの実務は、1試合や1シーズンの単位でやるべきことがある程度決まっており、いわゆるルーティンワークが多くなる傾向にあります。かつ、人員や資金など様々なリソースの制約から、業務はIT化されずに人力やアナログに頼る部分がまだまだ多いのが実情です。その代表的な部門のひとつが広報でしょう。毎日発信するSNSやWEBニュースの文章作成、または、写真や動画などのビジュアル制作など、現状は人力で行っている業務をAIに任せることで効率化できる範囲が比較的多い部門と捉えています。
その中で、一例として、昨年はAIを活用した「各部門が発出するWEBニュースの品質を平準化」する業務改善に取り組みました。プロサッカークラブでは、各部門やスタッフが各々で自部門における取り組みをまとめ、広報に集約してニュース発信を行います。したがって、部門やスタッフ個々の能力や理解によって、文章のトーンや用語の使い方にばらつきが生じやすい傾向にあります。これを広報担当が人力で修正すると、それだけでかなりの稼働を取られてしまいます。そこで、各部があげてくる原稿の表記揺れを統一するため、会社の広報ルールやJリーグの用語集を事前に学習させた「Gems」(=事前に情報を読み込みカスタマイズされたボットを設定するGeminiの機能)を作成・展開しています。インプットしたルールにそぐわない箇所はAIが自動的に修正提案してくれるため、広報担当が基本的な修正事項に隅々まで目を凝らし、各担当者に個別連絡をするような過剰な手間が省けるようになります。このようなAI活用によって、広報担当者の業務負荷が削減されることを期待しています。
会社経営者としての日々の業務
日々の壁打ちや調査には、『ChatGPT』と『Gemini』が欠かせない存在になっています。ChatGPTは生成AIが出現した当初より利用頻度が高く、GPT機能も活用したかったため、現在は有料会員として契約しています。特に、GPTでは、サッカー業界における国内外の規約類を事前学習させたボットを作成・活用しており、複雑な規約の解釈や確認作業を瞬時に行えるような効率化を行っています。
ちなみに、以下本稿で紹介するAIサービスは、ChatGPT以外はいずれも無料アカウントで利用しています。
翻訳については、Google翻訳は滅法使わなくなりました。多くの場合、ChatGPTを使って外国語をより自然な日本語に訳してもらっています。従来の機械翻訳と異なり、AIは文脈を理解した上で適切な訳語を選択してくれるため、体感で90%は翻訳結果をそのままコピペして使えることが多いです。また、外国語を使って対面で会議をする際には、バックアップとして『Otter』というスマホアプリに録音しています。アプリ内で全文を書き出したり要約したりしてくれるので、会話の中では分からなかった箇所を後から振り返ることができます。特に当該アプリはAI議事録サービスの中では、無料で利用できる1回当たりの録音時間が長いため重宝しています。
ミーティングメモは『NotebookLM』に蓄積して、いつ誰とどのようなミーティングをしたのかをチャットベースですぐ取り出せるようにしています。オンラインで行ったミーティングであれば、Meetで自動議事録作成をオンにし、出力されたスクリプトをGeminiに読み込ませて綺麗にさえすれば、ミーティングメモの作成を完全自動化できます。これもNotebookLMに蓄積させるとよいです。従来であれば、過去のミーティング内容を探し出すために大量のメモを読み返す必要がありましたが、今では「あの件について誰と話したっけ?」とAIに問いかけるだけで、関連する情報が瞬時に表示されます。 人と会ったり企業研究をしたりする場合は、ChatGPTのDeep Researchを活用しながら集めたソースをNotebookLMに一括管理して、打ち合わせがある直前に振り返ったりしています。最近では、NotebookLM内で直接Deep Researchができるようになったので、調査からチャットボットの作成、後述する資料作成などがよりシームレスに繋がっています。
記事を書くときには、『Claude』を重宝しています。ChatGPTよりもネイティブらしい日本語の表現力に優れているため、シーンに応じて「ビジネス文書で」「エッセイのような文体で」といった使い分けをして文章作成してもらっています。ただし、AIが生成した文章をそのままコピペすることはしません。AIっぽさが出ることを避けるため、最後は必ず自分の目で全文を通しで読み、必要に応じて添削を加えます。AIはあくまで叩き台を作る存在であり、最終的な仕上げは人間が担うべきだと考えています。
重要な資料を作成する際には、コンサル時代に培ったパワーポイントを利用しますが、簡単なリサーチ資料であればChatGPTのDeep Researchで網羅的にレポートを作成し、それをまるまる『Genspark』か『Manus』に読み込ませ、スライドを自動生成してもらっていました。この2つのサービスは、生成される資料のクオリティが高いAIエージェントだと感じています。GensparkよりManusの方がクオリティが高いため後者を好んで使っていましたが、クレジットが少ないのが玉に瑕。クレジットがなくなればGensparkを利用するという使い分けをしていました。
一方で、上記全ての動詞が「過去形」な背景は、やはりGeminiの進化によりゲームチェンジが起こったことでしょう。NotebookLMの新機能として、インプットした文章からインフォグラフィックスやスライドを自動生成する機能が実装されました。Gemini 3の進化により日本語対応も格段に進化したことから、今ではスライド作成はGemini × NotebookKMに一本化しつつあります。
AIが存在しなかった世界にはもはや後戻りできません。例えば、コンサル時代にやっていたような議事録作成やGoogle検索で何ページも遷移しながらソースを得るような作業は、自分自身のモチベーションとしてもはやできません。前者はGoogle Meetの自動作成で、後者はDeep Researchで一発です。ちなみに、調査系の業務は、ChatGPTで作成したDeep ResearchレポートのファクトチェックをGeminiにやってもらう(その逆もしかり)といった利用方法もあります。
サービス開発における活用
上記以外にも、経営者の端くれとしてサービス開発に挑んでいます。サービスのプロトタイプは、『Google AI Studio』で作成しています。非エンジニアである私が実際に動くアプリケーションを作れるようになったのは、このツールのおかげです。
Google AI Studioの他にも、『Rork』『Lovable』『v0』など様々なバイブコーディングツールを試してきましたが、現時点ではGoogle AI Studioが、無料ながらもほぼ無制限に利用でき、アウトプットの品質も高いため、最も優れていると感じています。
バイブコーティングにおいて、最近特に没頭しているのが『YouWare』です。本ツールでは、AI搭載アプリケーションの開発から公開までを一気通貫ででき、かつ、公開したサービスを様々な人に実際に使ってもらえたり、場合によっては収益化したりすることができます。このようにモチベーションを保ちながらバイブコーディングの練習ができるというのは、学習観点からも効果的だと感じています。ただし、昨年末頃から無料ユーザーのデイリークレジットが蓄積しない仕様になってしまったので、最近は熱量がトーンダウンしています。いまのところ、完全にベストと言えるバイブコーディングツールが存在しないので、2026年のさらなる進歩に期待しています。
バナーなど何かしらの画像を作成したいときは、Geminiの『Nano Banana Pro』を活用します。同じくGoogleの『Whisk』というサービスも画像生成では使い勝手が良いです。複数の案を一括で提示してくれるため、デザインの方向性を決める際に重宝します。
サッカークラブでAI化できる領域
ここからは、プロサッカークラブという組織において、AIがどのような可能性を秘めているのか考察したいと思います。
広報の添削業務については、先ほど触れた通り、GPTやGem機能でチャットボットをカスタマイズすれば、誤字脱字の発見やリーグ/クラブが定める用語集に則った添削が可能になります。より有効的な活用方法としては、雛形の事前学習が挙げられるでしょう。定型的なWEBニュースはもはや雛形としてGPTまたはGemに学習させてしまえば、ユーザー側は箇条書きや雑記のようなインプットでもその雛形に即した記事を自動作成してくれるようになり、各担当者の文章作成を大いに効率化すると考えています。
多言語のSNS運用においても、翻訳や投稿内容の作成をほぼ人の手をかけずに実現できるでしょう。さらに踏み込むと、AIエージェントを使えば、SNS運用のワークフロー自体(投稿から公開まで)を完全自動化することもできます。そうすれば人員が足りず海外を含む新規ファンにリーチし切れないクラブにとっては、大きな可能性を秘めます。 AIエージェントによって人力を排除し完全自動のオペレーションを設計するような活用方法は、自分自身まだまだ勉強中です。
興行運営の観点では、クラブオリジナルまたはJリーグの観戦ルールを学習させたチャットボットを公開すれば、社員にとってもお客さんにとっても有効な情報ポータルになるはずです。「○○が発生した場合にはどう対処すればいいのか?」という問い合わせに対して、24時間365日即座に回答できる体制を構築できます。このような仕組みを競技側(プロチーム運営)に転用すると、私が実際に作成したFIFAルールや国内の移籍ルールに基づいて回答をくれるチャットボットのような活用事例となります。
プロチームの現場におけるAI活用も有望でしょう。プロチームの現場でほぼ毎日行われるミーティングを全て録音してNotebookLMに入れておけば、監督やコーチがいつどのような振り返りをしたのかが一目瞭然になります。また、選手のスカウトデータを全てNotebookLMに集約することで、「○○に強みを持った選手って誰がいたっけ?」「○○選手の契約条件って現在どうなっているっけ?」といった情報検索が瞬時に行えるようになります。スカウティング業務の効率化は、限られた予算とスタッフで運営されているクラブにとって、大きな価値を生み出します。
挑戦的ではありますが、バナー等の静止画のデザインや動画作成をGoogleのNano Banana Proや『Veo 3』などのAIを使いながら編集することも検討に値します。選手の正面写真さえ撮れば、当該選手が自由自在に動く画像または動画を作成することが技術的には可能な時代になっています。ただし、ひとつだけ注意点があります。選手肖像はファンにとってはいわゆる「聖域」です。わずかでも違和感を覚えさせたり、人物の一致性が損なわれたアウトプットになったりすると 、大炎上は必至です。技術的に可能であることと、実際に採用すべきかどうかは別問題として慎重に判断する必要があるでしょう。
さいごに
どのサッカークラブも人手が足りずに、スタッフの業務が逼迫している現実があります。特に下部リーグのクラブほどその傾向は顕著です。規模の小さいクラブほど、少しくらいの粗はステークホルダーの皆さんにも許容いただきながら、AIに振り切ったクラブ運営に挑戦してもよいのではないかと率直に感じています。そのような組織ができれば、アナログ業務の多いサッカー業界においては差別化要素になり得ると考えています。完璧を求めて何もしないよりも、まずは試してみてフィードバックを得ながら改善していく。そのようなアジャイル姿勢こそが、リソースの限られた組織がAI時代に生き残る道かもしれません。
自分自身、まだまだAIを使いこなせているとは言えない自覚はあるので、より企業の収益やコスト削減に繋がるような活用方法をこれからも学び、実践していきたいと思います。

